ポケモンGOにより、『ポケットモンスター』が『妖怪ウォッチ』を巻き返した

猫も杓子もポケモンGO。リリースから2週間にもかかわらず、世界規模でこれだけ流行ったゲームはほかに類を見ない。妖怪ウォッチの台頭により、ポケモンは徐々に下火になるかと思いきや、とんでもない返り咲きをしたものだ。
これを契機に、以前から書きたかった『妖怪ウォッチ』と『ポケットモンスター』はどこが違うのかについて綴ってみたい。


書籍『半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法』(著者 髙橋 広嗣)に、こんな一文がある。

社会学を研究している國學院大學経済学部の野村一夫教授は、『妖怪ウォッチ』を『ポケットモンスター』の違いについて次のように分析しています。
「こどもたちは現実の社会に生きていないため、ファンタジーを好むという傾向があります。ファンタジーには社会がなく、個人が世界や設定に直接的に影響を与えることができるからです。『ポケットモンスター』はそんなファンタジーを求める子どもの心理をうまく突いた作品といえるでしょう。
それに対して『妖怪ウォッチ』は妖怪こそ出てきますが、テーマはあくまでもファンタジーではなく現実です。子どもたちは学校のような小さく狭い、濃厚なコミュニティに属していますから、日常生活で生じるストレスや責任から逃れたくても逃れられないことがあります。妖怪が発する言葉は、こうしたストレスや責任から解放してくれる呪文であり、逃げ場のないコミュニティを生き抜くリアルなツールとなっているのでしょう」

半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法 (SB新書)

半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法 (SB新書)

 

 

色々、間違っている。現実世界を生きているからファンタジーを好むというのなら、その傾向は大人のほうが強くなるはずだ。別段そうした傾向はない。ファンタジーには社会がなく、個人が世界や設定に直接的に影響を与えることができるから子どもたちに支持されるという分析も意味が分からない。

現実世界かファンタジーかは好みの問題であり、それ以上に作品の完成度のほうが重要だ。また、「妖怪ウォッチの妖怪が発する言葉に現実世界のストレスから解放してくれている」という分析も腑に落ちない。まず、小学低学年がどんだけストレスを抱えているんだよっと突っ込みたい。それに妖怪の台詞は大人にも向けられている。見ていればわかるが、20年30年前のドラマやアニメをパロッた演出が多々ある。子どもはピンと来ていないだろう。完全に置いてけぼりだ。もちろん子供に向けた妖怪の台詞もあるが、共感を得る台詞を言うのであれば、主人公に言わせるのが自然だ(ターゲット視聴者と年齢が近いから)。

書籍の著者は続いてこう解説する。

レベルファイブは、玩具の展開も戦略的です。『妖怪ウォッチ』の玩具は、妖怪を見てみたい、出会ってみたいという子どもたちの願望を叶えてくれます。『ポケットモンスター」は完全なファンタジーですから、「ポケモンボール」を持っていてもポケモンを捕まえられる気にはなりません。でも、『妖怪ウォッチ』は、日常性を大切にしているので、主人公と同じ「妖怪ウォッチ」を身につけると、自分も町中で妖怪を見たりすれ違ったりできる気になるのです。「妖怪メダル」の裏側にはQRコードがあり、ニンテンドー3DSのカメラで読み込むと、メダルの種類に応じてゲーム内でレアなアイテムや妖怪が手に入ります。また、「妖怪ウォッチ」にメダルを入れると、それっぽい音楽や音声が流れる仕組みになっており、妖怪に会えるような世界観を作り上げているのです。


今回のボケモンGO流行により、「ファンタジーだから、ポケモンボールを持っていてもポケモンを捕まえられる気にはなりません」は否定された形になる。ファンタジーのポケモンと現実世界が融合し、画面上のポケモンボールを使って、世界中の人たちがポケモンのGETに血道を上げている。

余談だが、現実世界と融合したゲームは、ポケモンGOが初めてではない。有名どころでは、すれ違い通信を導入した『ドラクエⅨ』がそうだろう。一瞬ではあるが、現実世界のすれ違いが、ゲーム内に影響を与えるようになっている。ドラクエⅨもファンタジーだが、これはこれで十分流行った。私の個人的な要望としては、ポケモンGOのように、現実世界にモンスターが出現して戦闘できるドラクエがリリースされてほしい。で、みんなで共闘してモンスターを倒していく。面白そうじゃない?

話を戻そう。現実世界の話だから共感する、ファンタジーだからあまり共感しないというのは、かなり浅はかな分析である。視聴者が共感できる行動を主人公が取れば、現実世界かファンタジーかはほとんど関係ない。話の設定(現実世界かファンタジーか)でアニメを分析すると本質を見誤る。アニメは、キャラクターが主役であり、世界観もストーリーもキャラクターのために存在すると言っていい。

書籍『人を惹きつける技術 -カリスマ劇画原作者が指南する売れる「キャラ」の創り方』(著者 小池 一夫)にもこう書かれている。

繰り返しになりますが、「漫画 = キャラクター」です。そして、ドラマよりも先にキャラクターを創ること。これは大前提です。キャラクターができると、ドラマはあとからついてくるのです。もちろん、これは他のメディアでも同じです。
作品を創りたいと思ったとき、まず決めなければならないのはどういうことでしょうか。
漫画に限らず、多くの人に楽しんでもらえるエンターテインメント作品を創ろうと思ったときに、決して間違えてはいけないのは、最初に「どういうストーリーを描きたいか」を考えるのではなく、「どんなキャラクターを描きたいか」を考えるということです。

人を惹きつける技術 -カリスマ劇画原作者が指南する売れる「キャラ」の創り方- (講談社+α新書)

人を惹きつける技術 -カリスマ劇画原作者が指南する売れる「キャラ」の創り方- (講談社+α新書)

 

 

妖怪を出すなら現実世界、そうでないモンスター(ポケモン)を出すからファンタジー。キャラから逆算すれば、このような設定なるのが自然だ。『妖怪ウォッチ』と『ポケットモンスター』も、魅力的なキャラクターが作られ、キャラを活かせた設定だったから人気を博した。成功要因の大半は、これに尽きる。

とまぁ、私の所感を綴ってみた。