森友問題を「佐川氏の責任」で終わらせたい人々

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「財務省の佐川氏が勝手に文章を改ざんした。安倍総理と麻生大臣に責任はない」という言説がネトウヨ界隈で信じられている。正直、本気でそれを信じているのかと疑ってしまう。せめて、ポジショントークであってほしいし、本気で信じているなら重症である。

「財務省の官僚が勝手にやったこと」。そもそも、この言い訳をするために忖度が使われるのである。自分に責任が及ばぬよう、明確な指示を出さずに相手が察するように仕向け、いざとなったとき、「私は知りません。指示していません。関与していません。」の言い訳をする。卑劣で無責任なやり方だ。安倍総理や麻生大臣が「佐川氏が勝手にやったこと」と責任回避するのは、問題発覚後からの想定範囲であり、忖度を有効発揮している事象に過ぎない。

大事なのは、国民の姿勢だ。もし、「財務省の佐川氏が勝手に文章を改ざんした。私ども(安倍・麻生)は知らなかった」を許せば、今後も忖度が許される形になる。官僚がすべての責任を負わされて、政治家が一切の責任を負わない政治体制を作ることに繋がる。そんな前例は許してはいけないし、今回のようなあからさまな例は持ってのほかだ。

「官僚が政治家を引きずり下ろすためにわざと文書を改ざんしたらどうするんだよ」と言う人もいるが、その可能性は低い。安定志向の塊のような官僚が、下手したら失業・逮捕されるリスクを背負ってまで刺し違えようとはしないだろう。それに、決裁文書というのは幾人ものチェックが入るため、一人で改ざんなんてそうそうできない(そういったチェック機能が果たせていないのなら、組織体質・仕組みの問題であり、大臣の指揮管理能力のなさである。本件に絡めて言えば、麻生大臣が無能だということだ)。

今回の改ざんも佐川氏が一人でしたわけではない。関わった人が18名もいる。18名もの人間が関わっていながら誰一人告発もせず、犯罪だと分かっていながら文書を改ざんしたという事実が、「改ざんをせざるをえない何らかの理由・背景」が存在したことを示唆している。 

組織(上と下の関係)うえで起きる「忖度」には、することで得られる利得、またはしないことで受けるペナルティがあるからこそ行われる。これは推測だが、人事権を握られている官僚たちは忖度しなければ、出世コースが閉ざされるという意識があったのではないだろうか。それぐらいの強い脅迫的な空気が無ければ、犯罪に手を染めて佐川氏が改ざんする理由が分からないし、18名もの官僚が改ざんに関与したとは考えにくい。一体どんな空気が財務省を覆っているのだろうか。そういえば、忖度をした佐川氏は国会答弁後に晴れて栄転となっていたな。

「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))

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忖度や意図がなければ起こりえないと思うことばかり

・調べによると、改ざんが始まったのは、2月下旬。総理が「私や妻が関与してれば議員を辞める」と発言したのは、2月17日。このタイミングは忖度の可能性を示唆している。

・今回の一件で、佐川氏の国会答弁(参考人招致)は嘘だったことが判明したわけだが、なぜ佐川氏は文書を書き変え、かつウソの答弁をする必要があったのだろうか

・政治家の関与がないのであれば、なぜ政治家の名前を文書からすべて消したのか

・78ページ中310か所も書き換える必要がどこにあったのか

・なぜ財務省の人間は、佐川氏の指示に黙って従ったのか

・なぜ与党は、籠池氏を証人喚問で呼びながら、佐川氏は参考人招致に留めたのか

・なぜ籠池氏は、半年以上も留置されなくてはいけないのか

・なぜ昭恵夫人の秘書は、海外赴任になったのか

・なぜ昭恵夫人及び秘書は証人喚問及び参考人招致されなかったのか

・なぜ佐川氏は参考人招致後、理財局長から国税庁長官に栄転となったのか

・なぜこのタイミングで佐川氏は辞職したのか

・なぜ文書書き換えが明るみになったにもかかわらず、与党は昭恵夫人の証人喚問に応じないのか

・朝日新聞が文書の書き変え疑惑を取り上げるまで、なぜ財務省は開示しなかったのか

・3月5日に国交省から官邸に改ざんの報告が上がり、3月6日には安倍総理も改ざん前の文書の存在を知っていならが、なぜ「11日に報告を受けた」と答弁したのか

・改ざん前の文書を保存してあったPCをなぜ財務省は処分していたのか

・自殺した近畿財務局の職員は、生前「自分の常識を壊された」と述べていたようだが、一体何があったのか

・自殺した近畿財務局の職員のメモには、「決裁文書の調書の部分が詳しすぎると言われ上司に書き直させられたとか、勝手にやったのではなく財務省からの指示があった、このままでは自分1人の責任にされてしまう、冷たい」とあった。一体何が行われていたのか。

・なぜ、地中ごみを試掘した業者は“虚偽のごみ報告書”を書かせられたのか

・なぜ、森友建設の土の搬出を請け負った建設会社(下請け)の土木従業員が自殺したのか

 

これだけの不自然な事象は、どう考えても尋常ではない。何らかの強い力が働らかなければ、このような一連の事象は起きるはずがない。バイアスがかかっていなければ、誰がどう見ても政治的な力が働いていると容易に想像できる。

これだけの隠蔽や状況証拠があるにも関わらず、安倍総理の「私も妻も関わっていない」の言葉を信じるのは、ホテルの同室に泊まっておいて、「身体をほぐしてもらっただけ」の言葉を信じるレベルだ。

ついでに言えば、文書の改ざんに近い事案は他にもあった。
「裁量労働制のほうが労働時間が長くなる」という“不都合なデータ”の隠蔽や、南スーダンの国連平和維持活動の「日報隠し」だ。叩けばまだまだホコリが出そうだ。

 

 

佐川氏が関わった案件はすべて調べる必要がある

安倍総理は、「国民の皆様から厳しい目が向けられていることを真摯(しんし)に受け止め、なぜこんなことが起きたのか、全容を解明するため調査を進めていく。麻生財務大臣にはその責任を果たしてもらいたい。その上で、全てが明らかになった段階で、二度とこうしたことが起きることのないように信頼の回復に向けて、組織を立て直していくために全力をあげて取り組んでもらいたいと考えています」と述べた。確かに、今回の一件で政府への信頼は大きく落ちた。

佐川氏が関わった他の案件でも、「文書の改ざん」が行われた可能性はぬぐえない。余罪を徹底的に調べる必要がある。もし、今回と同様に忖度の可能性を中心に調べるなら、安倍総理や昭恵夫人が少しでも関わった案件から徹底的に調べたほうがよい。それが国民への信頼回復に向けた取り組みだ。

 

 

【考察】なぜ、こんなにも不自然で不誠実な事柄ばかりなのにも関わらず、「政治家には責任がない」「一切の関与がなかった」と言い張る人たちがいるのか

人は、信じたいものを信じ、信じたくないものを信じない。先の「夫人の名前は籠池の発言に含まれてるだけ」もそうだし、「財務省の佐川氏が勝手に文書を改ざんした。安倍総理と麻生大臣に責任はない」と考えるのも、まさに“信じたいものを信じ、信じたくないものを信じない。”の表れである。
この心の動き(バイアス)は、事実を見ないばかりか、事実をも歪曲してしまう。すべて自分の都合のよいほうに解釈し、本質をも見誤ってしまうのだ。


書籍『失敗の科学』にこんな記述がある。

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1954年秋、当時ミネソタ大学の研究者だったフェスティンガーは、地元誌の奇妙な見出しに目をとめた。「シカゴに告ぐ、惑星クラリオンからの予言―大洪水から避難せよ」。記事の内容は、霊能者を名乗る主婦マリオン・キーチが、ある惑星の「神のような存在」から、次のメッセージを受け取ったというものだ。「1954年12月21日の夜明けの前、大洪水が発生して世界が週末を迎える」
(中略)
信者たちはみな、「世界が終わる直前、真夜中に空から宇宙船が現われ、キーチの小さな家の庭にやってきて、信じる者だけを救ってくれる」と信じ込んでいた。
(中略)
野心旺盛な科学者フェスティンガーは、またとないチャンスが訪れたと考えた。このカルト集団に信者のふりをして潜入すれば、世界の終末が訪れるまで彼らの行動を観察できる。特に興味があったのは、予想が外れたあとの信者がどんな行動をとるかだ。
(中略)
そして予言の当日。約束の真夜中になっても、宇宙船の姿は見えなかった。洪水も世界の終末も来る気配さえない。フェスティンガーと同僚は、居間で信者たちの様子を見守った(ただしキーチの夫は信者ではなく、とっくに寝室でぐっすりと眠っていた)。信者たちは、最初のうちはときどき庭を見て宇宙船が降りてこないか確認していたが、真夜中をすっかり過ぎると、一様にどんよりとした顔つきになった。しかしやがて、何事もなかったようにそれまで通りの行動を始めた。つまり、フェスティンガーが予想した通り、大事な予言をした教祖に幻滅することはなかったのである。そればかりか、以前よりも熱心な信者になる者も出た。
(中略)
実際、信者たちは予言がはずれたあとでこう主張した。「神のような存在は、私たちの信心深さにいたく感心して、この世界に第2のチャンスを与えてくれた!(筆者がわずかに言い換えている)」「私たちが世界を救ったのだ!」中には集団を抜けるどころか、さらにメンバーを集めようと布教活動に出る者もいた。
(中略)
このエピソードは、カルト集団に限らず、我々が誰でも持っている一面を示唆している。(中略)多くの場合、人は自分の信念と相反する事実を突き付けられると、自分の過ちを認めるよりも、事実の解釈を変えてしまう。次から次へと都合のいい言い訳をして、自分たちを正当化してしまうのだ。ときには事実を完全に無視してしまうことすらある。(p99-102)

 

ネトウヨ界隈の言説を見ていると、上記のカルト集団を見ている気分になる。

森友問題なんてない。証拠もない ⇒ 朝日のねつ造だ ⇒ 書き換え発覚 ⇒ 開き直り、財務省の陰謀、佐川の勝手な忖度(関与がない)など

 

 

どんな解釈だよw

 

 

終いには、デマまで信じ込んで拡散している。

【フェイク注意】民主党時代にも「文書書き換え」の前例!?→自民党時代の2007年に発生した事件でした | BUZZAP!(バザップ!)

 

 

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冒頭に私は、「ポジショントークであってほしいし、本気で信じているなら重症である。」と書いたのは、ポジショントークなら、まだ自分をメタ認知できているからだ。「自分も森友問題は黒だと思うけど、でもまぁ安倍総理には辞めてほしくないから、都合の悪い事実は無視して、都合の良い事実と解釈を発信しよう」という姿勢なら、まだ救いようがある(正直、その姿勢もどうかと思うが)。だが、「財務省が全部悪くて、安倍総理も麻生大臣も悪くない」と本気で考えているのなら、相当重症である。上記のカルトと大差ない。大なり小なり、人は「信じたいものを信じ、信じたくないものは信じない」という心の動きをするが、今回の一件は、不自然な事柄が山のようにある。これに目を背くようでは、相当ヤバい。かなりイっている。


ほかにも、都合の悪い事実を見ようとしない事象は、今回の一件でもいくつか思い当たる。

たとえば

・「いつまでモリカケやっているんだ」と批判していた人たちは、この問題を追求し続けた野党と新聞社に対して、ねぎらいの言葉が一つもない。途中で辞めていたら、財務省の汚職は闇の中へと消えていた。

・文書の書き換えが明るみになったことで、今まで本件で国会の時間を無駄に費やしていた責任は与党側に移ったが(麻生大臣の管理不足)、その責任を追及する言説が野党批判者から聞こえてこない。

・近畿財務局職員の自殺の原因が職務にあるのであれば、誰かがその責任を負うべき案件であるにもかかわらず、その責任を追及する言説もまた野党批判者からは聞こえてこない。

※誤解なきよう、私は別に野党のどこかの政党を推しているわけではない。

 
100歩譲って、安倍総理が本当に関知しておらず、佐川氏が勝手に文書を改ざんしたとしよう。それでも、麻生大臣の責任が一切問われないのはおかしい。自分の管轄内で起きた犯罪である。民間企業なら辞職ものである。しかも、犯罪を犯した佐川氏を栄転させているのだから、もはや財務大臣という以前に、人を束ねる人間として能力が低い。なぜ、そんな人間に安倍総理は後処理を任せるのか。お友達内閣もいい加減にしてほしい。

今回一番気持ち悪いと思ったのは、亡くなった近畿財務局職員に対して麻生大臣が心を痛めていない点である。しかも、財務省の長であるにもかかわらず、「最終責任は佐川にある」と言い、佐川氏だけに責任を押しつけようとしている。最終責任を部下に背負わせ、責任を一切取らない長なら、いる意味がない。それこそ辞任してほしい。骨の髄から腐っている。

公文書の改ざんは、先進国ではあってはならぬ行為だ。これで、まともな責任を取る者がいないとなれば、世界のいい笑いものである。これ以上、日本に恥をかかせないでほしい。

 

終わり

 

 

小ネタ

これだけは言えます。
麻生大臣が言った「佐川国税庁長官は適材適所だった」は間違っていない、と。なぜなら、麻生大臣の代わりに罪を被ってくれるのですから、麻生大臣からしたら、これ以上ない人事だったと思います。「適材適所」の言葉の前に「自分にとっては」を言い忘れていただけなのです。

 

私はよく言うんです。
昭恵夫人こそが真の野党、与党クラッシャーだと。野党はもっと彼女に感謝すべきです。

 

仮に、佐川氏が安倍総理の発言を聞き、勝手に忖度をして犯罪に手を染めてまで文書を書き換えたのであれば、ある意味、超絶機転が利く優秀な人材です。彼の爪の垢を煎じて、どうか超絶機転が利かない昭恵夫人に飲ませてあげてください。

 

私はよく言うんです。
掘れば掘るほどゴミが出たのは、森友学園の土地ではなく、財務省と安倍政権だと。

 

文科省が前川氏の講演内容がわかる録音データなどを提出するよう主宰中学校に求めたそうですが、国による学校教育への関与は法で制限されています。しかしネトウヨのみなさん、ご安心ください。文科省が安倍総理のご意向を勝手に忖度しただけです。安倍総理は悪くありません。

 

 

 

 

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