機関車トーマスと無職者ニート

アニメ『機関車トーマス』を見ていると、機関車たちが頻繁に口にする言葉があることに気づく。それは「役に立つ」である。「君は人の役に立つ機関車だね」「君は立派に人の役に立っているよ」などだ。機関車にとって人の役に立つか否かは存在意義に関わる重要な価値観のようである。人間の生活をより快適にするために作られたのだから、そう考えるのは自然なことなのだと思う。

では人間は何だろう。人間の存在意義を左右する価値観は何だ。
今、私が生きているこの時代、この世界では、「お金」がその価値観を担っているのではないだろうか。「頂いたお金は、提供した価値への対価」という言説があるように、「お金=価値」が強く結びついている。個人的には、この理論への突っ込みはいくらでもできるのだが、それはさておき、世間一般的にはこうした価値観が疑われずに存在していると考えていいだろう。つまり、人もまた、人に役に立つか否かが存在意義を左右する重要な価値観とされているのだ。だからこそ、人は成人してから仕事に就き、お金を稼ぐことを社会的義務とされ、合意されている。

この価値観においての無価値な人間は、日本にどれだけいるのだろうか。調査によるとニート(無職者)は全国で74万人とある。ここ10年、ニートの数は若干減っているが、それはそもそも若年層の人口が減少傾向にあるためだ。労働人口との割合で見たらほぼ同じと考えていい。

コロナの影響により、おそらく職を失う人は多くなるだろう。そして今何かと話題のAIによって、将来職を失う人も数多く出てくるだろう。つまり、ニート(無価値な人間)が世の中にあふれるようになるのだ。

ほぼ確定された未来、ニートは今後も増え続け、8050問題を抱える日本にとってこれは死活問題である。世界でもベーシックインカムをはじめ、様々な社会システムの変更を考える動きが出てきた。

社会システムの変更を余儀なくさせたのは何か。それはニートの存在である。

実のところ、私自身、「お金が存在意義を左右する」などと微塵も思っていない。「人は存在しているだけで意味(価値)がある」と考えている。現に、ニートたちが“存在している”だけで社会へ影響を与えはじめている。AIは生活をよりよく変えてくれるかもしれないが、社会システムまでは変えやしない。社会システムを変えるのは人間の意志決定によるものだ。そしてその意思決定に影響を与えるのが、不況やAIによって生まれたニートたちの存在である。

第二次世界大戦後、世界各国で独立運動がおこり、世界のあり方が大きく変わった。これと同じインパクトをニートがもたらすと私は考えている。ニートこそ最先端の運動なのである(運動などという自覚がなかったとしても)。
世界は変わる。無価値と思われていた人たちによって。