手に入らぬ世界を知り、あなたは何を見出す

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数日前からNHKオンデマンドで『世界の車窓から』を見始めた。
車窓から見える壮大な大自然に心を奪われ、豪華絢爛な世界遺産に感嘆の声を上げながら見入っている。世界は広くて美しい。一度は行ってみたい。

だが、おそらく私は、TV越しに見ている大自然や世界遺産のほとんどを肉眼で拝むことはないだろう。お金や時間、言語の壁が大きく立ちはだかるからだ。それが分かっていながらも、自分の知らない大自然や建築物が「ある」ということをTV越しに知りたいし、見てみたい。ただそれだけで、自分の中にある世界の認識が広がったような感覚になる。

漫画『進撃の巨人』に、アルミンが目を輝かせながらエレンとミカサに本を見せるシーンがある。「炎の水! 氷の大地! 砂の雪原! きっと外の世界はこの壁の中の何倍も広いんだ! エレン! いつか、外の世界を探検できるといいね」。

アルミンは自分が壁の中にいて外に出られないことを知りながら、世界の広さや未知に抑えられないほどの興奮を覚えた。一方、この話を聞いたエレンは、自分が小さな世界にいること、そして壁の外に出られないことに行き場のない怒りを抱く。この怒りがエレンの原動力となり、先の話、世界をどん底に落とすことになる。

漫画『魔女の旅々』にもこんな話の回がある。
ある小金持の家の息子エミリーは、奴隷の女性ニノに恋をし、いつも暗い表情の彼女のために魔法で集めた幸せの欠片(情景)を見せようと試みる。世界にある「幸せ」を見せられたニノは突然泣き出し、エミリーは状況をうまく把握できないでいた。話の文脈上、彼女は自分の人生に絶望し、おそらくその後自ら命を絶った。

エミリーは、純真な気持ちでニノを喜ばせたかったに違いない。世界はこんなにもいろいろな幸せがあるのだと。だから君も幸せを夢見てほしいと。だが、自分は幸せを享受できない身分だと知る彼女にとって、それはただただ残酷なものでしかなかったのだ。

アルミンとエミリーは似ている。
未知の世界は希望や夢に映った。

エレンとニノもまた似ている。
未知の世界が手に入らない現実を呪った。

 

 

最近、巻き込み自殺を図る事件が増えている。人を殺して自分も死のうと考えたり、死刑に処されるために殺人をしたり。享受できない世界があるのだと知った時、一部の人間は、世界を壊すか、自分を世界から消すかを選ぶ。

「生きていればいいことがある」「「世の中にはまだ知らない面白いことがいっぱいある」
弱った人間にそう励ますのは、もしかしたら、絶望の淵に追いやっているのかも知れない。

 

 

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